三人吉三廓の初買 [乱読三昧]
歌舞伎の定番演目「三人吉三廓の初買」の初期脚本。
江戸時代の古典はさすがに現代語との違いも少なく読みやすい。さらに、新潮版では、注釈が各ページに見やすく配置されており、部分的にふりがなのように現代語訳が挿入されているため原典の趣を楽しみながら無理なく理解することができる。
当時の歌舞伎は現代で言えばトレンディードラマであり、同時代のはやりの風俗/題材に役者のゴシップなどを差し挟みつつ進行するポップカルチャーの定番のようなものだったようである。
この作品はストーリーを楽しむと言うより江戸時代の風俗や言葉のリズムを味わう作品なのだが、作者「黙阿弥」は後生にのこる決めぜりふの達人で、有名なところでは
「しらざぁ、言ってきかせやしょぅ」 (弁天小僧)
など、演劇など長く引用される言葉を生み出している。こうした言葉は私の幼い頃の記憶に定着しているので、新劇など、うちの父親が見るような後の大衆演劇にも受け継がれていったのだろう。
オルタードカーボン [乱読三昧]
翻訳本が出て話題の作品「オルタード・カーボン」を読んだ。
「オルタード」というと、「アルタード・ステーツ」を思い出すが、他にも作品中には他のSFの引用を思わせる「ニヤリ」とさせる種が出てくる。
基本設定はテクノロジーの進歩により「人格」の「死」が無くなってしまった世界での話だ。そこでは、一切の記憶と人格はメモリースタックに格納され、時に複製され、バックアップされ、肉体はデータとなった人格を格納する「スリーブ」でしかない。作品名の「オルタード・カーボン」は、その時々にまとい、脱ぎ捨てる肉体を指している。基本的に世界観そのものを読ませる作品だ。
そのため、前半は多少冗長で、下巻の1/2を過ぎたあたりから、謎解きの駆け込みが始まる。登場人物は名前が長く、さながら、むかしのロシア文学を読んでる気分にもさせられる。
普遍的なテーマでもある。そういえば、このところ、それっぽい作品を何冊か読んだのだった。
鉄腕アトムのリメーク「プルート」
PLUTO 1 (1) 【豪華版】 ビッグコミックススペシャル
- 作者: 浦沢 直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2004/09/30
- メディア: コミック
「ハガレン」もそれ系統だろうか
こうしたテーマに人が感心を持つのは、人自身が自我に抱く幻想と観ずるミステリーゆえだろう。
たぶん、知能や人格は、人工的に構成可能な記憶、判断、価値計量の統合なのだろう。ただし、ここでこうしてみている自我については?これが脳が構成したクオリアなのか?幻は幻を判別できるのか。
さて、あなたの人格をデータとして構成したとき、そのクオリアを観るのは”誰”か?
徹底した客観主義によれば、それは誰でもなく、一切無我なのだろう。そうした人はオルタードカーボンの世界での不死を不死として受け入れられる。だが、私自身は他人の”実在”性には疑問を挟めても、データコピーされた”私”をわたしとして受け入れられるほどの確信はない。
いまだ自我の実在性にぼんやりとした幻想を抱いてしまう。”我思う故に我アリ”というわけだ。ここで"観"ているという意識がそうした理解を妨げているのだ。
いやー、無我を達観したオシャカサマはえらいねぇ。
脳の中身が見えてきた 岩波科学ライブラリー [乱読三昧]
値段の割に中身が薄い。
どうも、理化学研究所が独立行政法人化された際に行われた記念講演を本にしたものらしい。
小脳の研究で有名な 伊藤正夫
ニューロ系の数学的研究で有名な 甘利俊一
最近脳の研究している 利根川進
この中では利根川氏の、「海馬の領域毎に受容体遺伝子を選択的にノックアウトする」ことによる分析が一番おもしろかった。現在はマウスでしか使えないらしいから、遺伝子操作の後、交配を繰り返して適切なマウスの出現を待つような手法らしいが、特定の組織の特定の領域でのみ特定の遺伝子の発現を制御できるようになってきているというのはしらなかった。
あとは、
伊藤氏のセクションは、「小脳は、刺激系と抑制系のパーセプトロンモデルで説明できるようになってきた」
甘利氏に関しては、ムカシからよく知ってるセンセーなので特に目新しいことはなく、また、講演に数式を出すわけにも行かなかったようで、各分野を総括的にまとめている内容だった。
電車の中で読むには適切な分量だった。
ダ・ヴィンチ・コードの謎 DVD [乱読三昧]
ダ・ヴィンチ・コードの参考文献の作者などに対するインタビューで構成されたほとんどお金のかかっていない検証もの番組をDVD化した内容であった。
ダ・ヴィンチ・コードで扱われた絵画や教会の実物が出てくるものの、もともとダ・ヴィンチ・コード自身がフィクションであることもあり、検証ものといっても論証に乏しく関連本でも買って読んだ方が良さそうな内容であった。
シオン修道会は1950年代に設立され、その前の歴史をねつ造したというのは、そんなものかと思えた。後は、カタリ派に関するうんちくがいくつか。
見ていながら眠気を催すにつれ、「そういえば、キリストが結婚していようが、ヨハネが真のメシアだろうが、極東のオイラにとってはどうでもいいことだったんだな」とつくづく思わせる作品。
他のDVD借りるついでに、あるいは、昼寝のお供にといった一本。
大人の科学マガジン Vol.7 [乱読三昧]
毎日かあさん2 お入学編 西原理恵子 [乱読三昧]
脳の中の幽霊 (Phantoms in the Brain) V.S.ラマチャンドラン 角川書店 [乱読三昧]
脳、認知やその仕組みに関する本だ。幽霊の本ではない。
脳に関する本はいろいろ読んだが、この本はとてもおもしろい。買って読むべし。
存在しない手が自在に動く、存在しないのに痛む!そして、存在しないその手を見ることにより消える!
見えない場所に、現実より生き生きした幻が見える!
目が見えないのに、空中の一点においた見えないはずの鉛筆を正確に掴む
なぜか? すべて、脳の仕組みに秘密があります。
筆者が実際の学者で(サイエンスライターの補助は受けている)あり、実例が豊富でかつ、語り口が平易な反面、その実例に関する考察があふれているからだろう、実におもしろい本である。
また、本書には例としては出てこないが、宮本武蔵が五輪の書で敵と対峙するときに「みているようでみていないようにみる」と言った意味が、脳の仕組みのどういった仕組みに起因しているかなどもちょっとわかる本です。
模倣犯 宮部みゆき [乱読三昧]
この本は、何年か前に買って途中で挫折した本なのである。
「誰か」を読んだ勢いで久しぶりに根性を出してようやく読了した。
いい本だと思うが、各人物の背景を書き込みすぎだとおもうなぁ。ところどころ追い込むような緊張感もあるが、基本的には、ストーリーというより登場する各人物の背景模写を楽しむ作品だと思いました。
あと、巻末で、予定の倍の五年間にわたって連載していたというくだりを読んで、なんとなく納得したものがあります。
「土地の値段はこう決まる」 井上明義 朝日新書 [乱読三昧]
不動産鑑定の三友システムアプレイザル
http://www.sanyu-appraisal.co.jp/comp/syacho.html
の創業社長さんの書いた本。
「土地は五年で半額になる」と、ここ二十年来ずーっと主張している人で、今後五年間でもやはり半額になるそうである。このこと事態は、上下動のある市況で同じことを言っていれば当たることもあり、それが激変期にあたれば注目されるということだ。ただ、氏の見方によると今後五年間の下落は、需要主体の回復局面が来ずに一時的な開発ブームにあおられてた都心の高額マンションが、実は、その開発業者が自転車操業状態であるにもかかわらず自らも止められない過剰供給をトリガーとして起きるという。
また、不動産ファンドの登場も価格の上下動の原因となると考えているようで、この指摘はもっともである。
ところで、この本でおもしろいのは後半の不動産鑑定業界の話であろう。井上氏は役所/公共を主体とする顧客構造を持つ業界で、それまで顧客にならなかった金融機関向けの簡略化され、安価なシステムを提案し業績を伸ばしたようであり、どんなニッチな業界にも部外者の参入による価格破壊と業界の改革があるのだなと感心した。「イノベーションのジレンマ」っぽい話である。
ダ・ヴィンチ・コード (The Da Vinci Code) Dan Brown [乱読三昧]
テンポもよく、おもしろいミステリーだった。
トリビア的な内容としては、死海文書ものを読んでいると眼にするようものだ。「航路」でもそうなのだが、大きな謎を扱う一方で、今日的な読者が感じるリアリティーの範囲内でまとめており、かつ、宗教にも敵を作らないストーリーのまとめ方には感心する。エンディングで、リアルの範囲内で希望をつなげるまとめ方も共通している。
ところで、キリストの行く末がかくも議論になるのは、古代ヘブライ文献に多用される暗喩、言い換えに起因していると思われるのだが、どこからがトンデモなのかが実にわかりにくい分野である。オシャカさまにならって直截的に言ったらどうかとおもうのである。